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2009/06/05

切なくもいとおしくどこまでも逃げていく音楽『The Mind Boggles』

語るべきテーマはとっくに決まっていて、だけどそれをどう書けば伝わるのか悩みまくっていた。

今年に入ってからのオイラはというと、とにかく「書く」という行為から逃げまくっているのだ。理由は自分でもよくわからないのだけど。でも、ここに来て、もっと書かなきゃいけない気がしてきているんだ。どんなに逃げたって月までは行けないんだし。

The Mind Boggles

さて、Steve Goreの死によって事実上というか結果的にRascal Reportersの最終作となった『The Mind Boggles』である。これはもういつものRascal Reportersの延長線上にある音だし、全体にウキウキした空気間は流れているのだけど、どうにもいろいろなものから逃げまくっている音だなぁというのが一聴した感想だった。全12曲、バラエティにとんだ楽曲が並ぶが、各曲から感じられるのはどうにもいつも以上に引っ込んだような部分。気になったというか引っかかった。顕著なのは2曲目の表題曲。リズムから逃げ、メロディから逃げ、歌から逃げ、アンサンブルから逃げ、楽器演奏から逃げ、そのくせフリー・ミュージックからも逃げたような楽曲だ。それでいて断片の寄せ集めであることも拒み、エンタテインメントとしてしっかり成立させてもいる。何というあやういバランス。いろんな何かから逃げようとする本能的な自分と、それを俯瞰してまとめあげる冷静な自分がいるような。本当に大胆不敵な音の塊だ。めちゃくちゃ面白い。
他の曲も驚くほど密度が濃い。もったりした反復にさまざまな楽器によるチャーミングなフレーズが乗る「The Jazz Caspers」。まさにカンタベリー音楽の王道にして最新形といった感じの「The Orange Jews of Mourning」は約10分に及ぶボーカル・ナンバー。厚みのあるキーボード音の応酬がモヤモヤな「Therese and Isabelle」。これまたカンタ風味にめまぐるしく転調する小品「Scuttlegeiss」。基本はゲーム音楽ってかRPGのバックミュージックのような楽曲なのに、途中で「Moon River」のフレーズが登場したりいきなりダークなドラム・ソロになったりする「Tomorrow's Todays」。Godley & Cremeがレコメンに挑戦したような変てこポップスの「1971's Chocolately Anal Bar Mitzvah」。一転、シリアスなもろジャズなナンバー「Osterburg 1980」(個人的には一部のフレーズがABWHの「Brother of Mine」っぽく」聴こえてならんのだが)。うそざむいハミングが吹雪のような「Winter Sahlstice」。ダルなギターの爪弾きから一転して素朴なボーカル曲になったりする組曲風の「My Amish Heart」。あからさまにHenry Cowフォロワー感まる出しで終盤は5uu'sっぽくもある「For The Years 2002 and 2003 Which Were Lost To Me」。最後はドリーミーでキュートでくすぐったい音だったりする「Stewing in Rodentia」。1時間ちょっとというラン・タイムは、職場までの電車で聴くのにちょうど良く、それはもう何度となく聴き返した。これからも何度となく聴くことだろう。時代に愛される名盤ではないだろうけれど、見つけることができた人には大なり小なり爪あとを残すような作品じゃないかと思うんだ。グッサリ来ているからそう思ってるのかもしれないけどね。
あらためてSteve Goreという才能に敬意を表す。ありがとう。そしてさよなら。

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